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カクヒトは、キャンパスノートを生活の一部として大切に使ってくださっている方に皆様にインタビューし、使い方や書くことへのこだわりをご紹介しています。

小森 嗣彦さん

日本一論理的な釣り師のキャンパスノート

バスフィッシングとは「考えること」、そう言い切るバスアングラー(angler:釣り師の意)の第一人者、小森嗣彦さん。トーナメントに参戦しながら、行く先々の魚の生態、湖の地形・気候、ゲームプランの成否などをノートに徹底して書き留め、蓄積したデータをもとに、釣りを“知的スポーツ”として実践されています。今回は小森さんにノートを見せていただきながら、ご自身の「釣り論」をお話いただきました。

小森 嗣彦さん

JB(日本バスプロ協会)所属。
2009年、2010年、2012年と3年間JB TOP50の年間優勝を果たした唯一のアングラー。トーナメントに参戦する傍ら、亀山ダムや琵琶湖でフィッシングガイドを営む。バスフィッシング・マガジン「Basser」にて、「小森ノート」を連載中。

バスの釣り師という職業の方に初めてお会いしました。どういったお仕事なんでしょうか?

基本的には、バスフィッシングの競技団体に所属し、年間5~6試合のトーナメントに参戦し、賞金を獲得しています。知名度が上がれば、釣具メーカーからのスポンサーを得られ、メーカーと一緒に商品開発をしたり、釣具用品のショップでのイベントに参加したりもします。あとは、各地の湖やダムでフィッシングガイドとして一般の方にも教えています。

そもそも、どういったきっかけで釣り師になろうと?

釣り自体は、父親の影響で小学校3年ぐらいから始めました。中高は野球少年でしたが、なんだかんだ釣りも続けていて、本格的に再開したのは大学のときから。大学では釣りにも通いながら、一方で生物学を専攻して、昆虫採集ばかりしていました。フィールドワークが好きだったんですね。卒業後の進路を考えるときに、これだけアウトドアが好きで、普通に就職したらつまらないなと思い、生物学の研究を続けるのか、釣りの道に進むのか随分悩みましたが、自分はスポーツも好きだったので、競技性のある釣り師の道を選びました。

釣りで生計を立てるとは、相当厳しい世界だと予想しますが・・・

はい。競技団体にプロとして登録するのは、そんなにハードルは高くないですが、登録しても大会で勝てなければ何でもない人です。とにかくアルバイトしながら、大会に出る日々でした。大会に出るにも、ものすごく費用がかかるんですよ。無名だとメーカーからの契約もないので、旅費、滞在費、船のガソリン代などもちろん誰も保証してくれません。当時は年間40試合ぐらい出ていましたので、そうすると200日はつぶれます。満足にアルバイトもできませんので、大会開催地近くの湖で釣りのガイドの仕事もしていました。ガイドをしながら練習もできますから。

ノートを取り始めたのはいつ頃からですか?

小学校のときから「釣果(釣れた魚の量)」は付けていました。きちんと取ろうと思い始めたのは、生物学の影響もあります。ある時大学の先生から「釣り人の話は聞かない」と言われたんですよ。生物調査をするときに、釣り人は感覚で話をするから、真面目に聞いちゃだめだって。一応釣果とか、その土地の様子を記録しながら釣りをしていた自分にとっては、それが悔しくて。自分はそうじゃないぞ、と言いたかったんですが、その頃は自分もまだまだイメージで書いている部分が多くて。池や湖の特徴なんかも、客観的データは乏しく自分の印象が主体でした。学問ではそれではダメで、事実の正確な記録からしか真理を見出せない。それは釣りでも同じです。地形や風、水の流れ・温度、湿度などの傾向をデータ(事実)とともに正確に把握する必要があります。印象と事実は違うんです。

水質や地形の特徴について詳細に記録

できるだけイメージだけでなく、客観的なデータを記録(写真は水深ごとの水温の記録)

気づいたことを、気づいたときに、とにかくノートに書き込んでおく

プロになってからも、変わらない習慣なんですね

はい、大会は大抵日本中の7つの湖で行われるのですが、湖ごとにノートをつけています。プロになりたての頃は、貧乏暇なしでとにかく時間がなかったので、何とか効率化させたいという気持ちが強かったですね。以前経験した湖の情報を忘れないように。ただ、プロとして食べられない時期が結構長かったので、一時期ノートに記録することが無意味に思えてしまい、空白の期間があります。今でも昔のノートは見返すのですが、その頃の情報はぼんやりとは覚えているのですが、正確な情報が残っていないので、後悔しています。

なぜ、また付けることに?

なかなか結果を出せなかったことに加え、2005年に親しくしていたプロの釣り仲間が亡くなりました。そのときは落ち込んでしまい、ノートどころか、釣りに対する情熱も失いかけたのですが、そんな中、友人の死の1年後に出場した試合で初優勝できたんです。奇しくも、亡くなった友人の船を借りて出た試合でした。

それは、また運命的な出来事ですね

そして、そのときの勝因がノートだったんです。実は、優勝の2年前に同じ湖で行われる予定だった大会が中止になったんですが、その時その場所で練習したノートが残っていました。しかも記録をつけていたエリアが、優勝した大会のときは練習では開放されず、本番だけ開放されたのです。ノートがアドバンテージとなりました。なんだか、亡くなった友人に「ちゃんとやれよ」と言われている気がしました。そして自分にとって「ちゃんとやる」とはどういうことかを改めて考えたときに、それがノートでした。湖に出てわかったこと、体験したことを記録し、宿あるいは車に戻って見つめ直す。その作業こそが他の釣り師がやっていない、自分だけの「ちゃんと」でした。

他の方はあまりノートを付けないんですか?

僕が知っている限りでは、僕以外で2人ぐらいですね。皆、理論づけて話すのは好きなんですが、それって本当?ということはよくあります。例えば、皆さんも聞いたことがあるかもしれませんが、“気圧が下がると魚が浮いてきて釣りやすい”。これ釣り師であれば誰もが口にすることですが、僕がデータを取り続けている限りでは、全く関係ないです。台風の前後でも、台風一過の直後が最も気圧は低いですが、実際一番釣れるのは、台風が接近して雲が多くなり、風が吹き始めたときです。雲が多くなり、日光が少なくなると、魚の活性が上がるというデータはあります。

時には、自分のデータ上にはない予期せぬことが起こることもありますか?

もちろん、釣りは学問ではないので、最終的には魚がエサに食いついてくれなければ始まりません。僕が自然のすべての真理を捉えられているわけではないし、釣り師のその時の精神状態も関係します。つまり、運に左右されることはありますが、その分、運ではない自分の知見によってどうにかできる部分は徹底したいと思っています。“たしか、このあたりで前によく釣れたんだよなあ”ということは、よくあります。どの場所で、どういう条件で釣れたのか、精緻に記録を取っておくことによって、その“たしか”の時間を削ることができれば、より有利に競技を進められます。そして、それはたとえ運に多少見放されたとしても、継続的にある程度の結果を出すことにつながります。そうすれば、スポンサーを納得させることができるし、運がついてくれば、スポンサーが喜ぶ成績を挙げることができるのです。

ゲームプランもノートに立てておく。以前は詳細にプランを記していたが、想定外のことが起きたときに身動きできなくなってしまうので、現在は大まかに選択肢を用意しておく

釣りってこんなに論理的に考えるものなのですね。印象が変わりました。

僕は、釣りは「考えること」だと、よく言っているんです。どのルアーを投げるのか、なぜそこに投げるのか、その必然性が大事です。何となくでは、たとえ結果が出たとしても再現性は担保できない。理由がしっかりしていれば、逆にたとえダメだったとしても、じゃあ次はどうする、という選択肢を考えることができます。その判断の材料になるのが、日々の記録の積み重ねだと思っています。

パソコンで記録した方がより効率的だとか、分析しやすいと考えたことはありませんか?

僕にとってはノートに手書きがベストですね。いろいろと理由はあるのですが、まずは気づいたとき、感じたときにすぐ書ける。そして、よく言われることですが、書くと覚えられる。これは本当にそうだと思います。あとは僕の場合、その土地、湖に関する数字的なデータから、文章による描写、手書きの地図、試合のゲームプラン、釣果、気合い入れの文言まで、記録することは実にさまざまです。パソコンでまとめるのは無理がありますね。エクセルでまとめたら何枚もシートができてしまうかもしれませんが、ノートなら1冊で済むでしょう。

時にはこんな精神を鼓舞する内容も。こういった自由さがノートの良さ。

昔の記録を振り返るときの気軽さなんかもありますか?

そうですね。不思議なもので、ノートってあとで見返したときに、書いてあることだけでなく、そのときの自分の気持ちや、書いてあることの間にあった、書いていないことまで記憶に甦ってきたりするんですよね。

やはり書くことによって、記憶が焼きつくんでしょうかね。そして、長年キャンパスノートをお使いいただいています。特に気に入っているところなどありますか?

罫線の薄さがちょうどいいですね。線に捉われて書いても良し、あまり気にせず書くこともできる。でも横の方向性は与えてくれている。白紙に書くのは、なんだか勇気がいるんです。書き出す取っ掛かりを、この存在感がありすぎない線の色が示してくれます。結構いろんなノートを見たんですが、この線の色は他にないように思います。コクヨさんのノートでも、罫線が点になっているノート(編集部注:ドット入り罫線)は僕にはダメなんです。

小森さんには、実にさまざまなキャンパスノートをお試しいただいている。基本はノ-4B。枚数、罫線の間隔がちょうど良い、とのこと。

罫線の色にはこだわっていますので、嬉しいです。最後に、バスフィッシングの世界で活躍されるようになった今、今後に向けて考えていることなどあれば教えてください。

皆さんご存知かもしれませんが、バスフィッシングは、バスが生態系を破壊することを助長する、という指摘を受けています。非常に複雑な問題であり、僕の立場で詳細な発言をすることは控えますが、僕自身は環境を守ることとバス釣りは両立できると思っています。この問題はバス釣りに関わる自分たちが当事者として真剣に考えていくとともに、もっと面白く、知的なスポーツだということを皆さんにお知らせして、バスフィッシングの裾野を広げていきたいですね。そのためにも自分のノートは積極的に公開していくつもりです。若いプロに記録を取ることの大事さを伝えたい思いもありますが、アマチュアの方でも、何かしらの理由で一度釣りから離れざるを得ない場合でも、ノートに記録を取っておけば、すぐにコツを思い出して、いつでも戻ることができます。ぜひ一度、僕のガイドを受けにいらしてください。

今日はお忙しい中、ありがとうございました。

(インタビュー@上島珈琲店・津田沼)

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